ただ胸を張って背筋を伸ばして顔を上げて歩いていただけなのに、何もないところで足首をひねり転ぶ。
一歩間違えれば頭を打って死んでいたかもしれないし、ろっ骨を折っていたかも知れない。道路にはみ出して車にひかれていたかもしれない。
ただ歩いているだけでこんな災難があるのだ。
今私がこの年齢まで生き残っていることが「奇跡」のようなもの。
そう思えば「長生き」なんて超常現象か異常現象か。
大きなけがや入院はなかったが「命のやり取り」はいつでも急にやってきた。
私は「生きる」選択をし続け今ここにいる。

過去に一度若いころ「タトゥー」を入れようと思った時がある。
周りに流されたんだ。
美しいイルカのタトゥーが私の身体のどこかに刻まられることを考えると、その時は高揚した。
そしてなぜ止めたかも覚えている。
傷つけられた身体に更に傷つけるのかと思うと耐えがたい。
私はそこで無意識に「長生き」することを選んだのだ。
「太く短く」なんて若かったから言えたこと。
そして歳を取ればできるだけ「生」にしがみつきもがき暴れまわることなんて思いもしなかった。
良くも悪くも「命のやり取り」があるたびに自身を省みる。
記憶は時に私を初心に返す。
もう一度すべてはやり直せないが、何度でもスタート地点に立とうとする今の私は希望を持って「長生き」に執着したい。
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