新品のインスタントコーヒーの封を切る瞬間というのは、何とも言えない「幸せ感」がある。
粉の苦みが鼻先に広がる。
ああ、私は「この瞬間」を楽しめる場所にいる。
東京にいたころと同じ銘柄なのにこうやって違って感じるのは「私」という輪郭が出来上がってきているのかもしれない。
コーヒーは値上がりや供給の不安定さもあった以前ほど「当たり前の手軽な嗜好品」ではなくなった。
インスタントですら「いつもあるもの」ではなくなってきた。
封を開ける行為は私の中でひとつの儀式であり特別なものなのだ。
そう感じながらも「部屋の中で完結する幸福」を横目で見ている私がいる。

味気ない。というより「静かすぎる」
東京でのコーヒーは「戦闘前の小休止」のようなものだった。
仕事や人間関係、人と比べ焦りを持ちながらも考えるのを放棄して埋もれていった。
今は「戦いの合間の避難所」ではない。
人間関係のごたごたは相変わらずだが、生活そのものが何とか地に着いているからだ。
「役割」が変わったんだ。
あれはあれで確かに私だったし、今も今でここにいるのも私だ。
移住したことで劇的な変化ととらえてしまって「無敵」な自分を演出し暴走はしたが、部屋に引きこもって外を眺めるくらいが丁度良かったんだ。
これはこれで深い変化だったと今は知ることができた。
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